昔、岡山県の臨海部、石油化学コンビナートで有名な水島に「ポルシェ」というカフェバー(懐かしい単語ですが)がありました。場所は産業道路と水島臨海鉄道(当時は今の様に高架にはなっていなくて、踏切がありました)が交差するあたり。道路沿いの看板には大きく「ポルシェ」と書かれて、その横にはやはり大きなクレストが描かれていました。今では考えられない、古き良き時代です。
そして時折、そのカフェバー ポルシェ の駐車場には、そのお店のオーナーのものと思われるゴールドの 930 型 Carrera が停まっていたのです。
当時スーパーカーショーに行くと、並んでいる 911 は turbo ばかりでしたから、このスリムで可憐な Carrera が逆に新鮮で、母方の実家に行く際にこの道を通る度、「あ、今日は停まってる!」「今日はいないのか・・・」と一喜一憂していたことを覚えています。
ただ、その Carrera には羽根、いわゆる Carrera Wing が付いていたと記憶しています。当時詳細な知識は持ち合わせていませんでしたので、「 turbo のところに Carrera と書いてあるちょっとスリムな 930 ターボ」くらいの認識でした。
そしてある日、既に夜になっていたと思うのですが、父とクルマでこの店の前を通りかかった際、Carrera が停まっているのを見つけて、一度だけ父とこのお店に立ち寄り、外に停まっているクルマがオーナー氏のものであることを伺ったのです。
その後、程なくしてそのお店は閉店、930 型 Carrera をそこで観ることも無くなってしまいました。
50 年近い時が流れて・・・
2024 年、ポルシェセンターの所長殿から「極上の 930 が入荷しましたよ」と声をかけていただきました。観に行ってみたら、いたのです。あの水島にいた Carrera が・・・
ボディカラーも、Carrera Wing も、水島のポルシェに停まっていたあれでした。もちろん今目の前にある 930 Carrera は最終型の 89 年モデル、そして水島で観ていた Carrera は自身の年齢から考えて、930 型の歴史の中では初期のモデルになると思いますが、でも僕の中ではあの Carrera でした。

ここで会ったが百年目、私のポルシェ遍歴の原点とも言える、あの日あの時の水島に引き戻してくれるこのクルマを我が家へ迎え入れない選択肢はありません。
とは言え、空冷ポルシェのドライブはそれなりに大変と聞いていましたし、今まで新型ばかりを乗り継いで来ましたので、全くためらいが無かった訳ではありませんが、勢いというのは怖いものです。
一方で、その昔は「羽根が付いている = スーパーカー、スポーツカー」だったので、Carrera Wing 付で良かったのですが、Carrera の良さはコンパクトで無駄のない、美しい曲面で構成されたデザインだと思っていますし、手許にあった 992 型はさすがに大きく、重たく思っていました。何とかこの Carrera Wing を取って、いわゆる本当の「素」の Carrera にできないかとずっと思っていました。
そして今年の1月から約3ヶ月かけて、我が 930 型 Carrera は Carrera Wing が無い本来の Carrera な姿に変身して手許に戻って来ました。この宿願の成就は、羽根なしのリアパネルの入手から、パネルの交換作業、繊細なチリ合わせから塗装の色調の統一まで、全て日本一のクラシック・ポルシェの拠点のレジェンドの皆さまの強力なご支援の賜物です。本当にありがとうございました。


ま、好きな人以外にとって些細でどうでもいい話なんですが、911 好きにとってはとても重要な話なんです。
この Carrera でいつの日かあのポルシェの跡地に行きたいものです。

